最近の嘱目句あれこれ20 2024年 (高澤良一)

最近の嘱目句あれこれ20 2024年 (高澤良一)
◼️春
勁(つよ)さうなものの芽に触る日曜日
民宿の婆の早起き磯菜摘み
味噌汁の具にする磯菜摘める婆
梅は先づ幹を見てそれから花を見て
磯風に飛び砂防風繁殖地
うぐひすの深雪の後の地鳴きかな
海苔篊の乾ける音の中へぶよ
金盞花ぼってり花に雪が乗り
足に当る馬珂貝獲らむ腰振って
湖の波そぞろに花屑寄せてをり
へたくそなわが字が躍る種袋
日は長く長く暮春のはないちもんめ
間延びして長閑竹竿売のこゑ
イートインから丸見え春の坊主山
◼️夏
荒波の上を飛ぶ鳥鰹時
磯鵯は欲張り鳥の異名持ち
路線図の端っこで降り海水浴
こりゃ何事手筒花火を脇抱え(遠州新居町)
地べたより飛び立つ感じ手筒花火(てづつ)とは
迷ひなく一気につける心太
はつなつの牛に向かってお早うと
東海の雨にびしょ濡れ蛇いちご
亀の子ののこのこ這ひ出す御前崎
蟹漁の網上げ大漁ざらざらと
蛇いちご群るこの辺で道尽きて
この歳まで深夜の蟹漁四十年(さる漁師曰く)
干涸びて市松模様の海蘿かな
のっぺらぼうの畑車窓に麦の秋
口先を突き出し居る魚皮剥とぞ
根腐れの始まってゐる布袋草
萍の雨に打たれて小躍りす
老鶯の真っこと徹る声であり
夾竹桃水はごくごく飲むべかり
手に当る雨やボートを漕ぎ続け
プールより上りし足跡点々と
若冲が描き漏らせしもの五月蠅(さばえ)
金蠅のいきなり発てり汚物より
水飯や梅のさねには天神をるぞ(梅を食うても核(さね)食うな中に天神居てござる)
踊る日の髪洗ふにもしーくわーさ
岩盤浴酸味がよしと菰纏ひ(玉川温泉)
庭の蠅いつしか居間に紛れ込み
萍の漂ふ如く夏至の温泉(ゆ)に
そそそそと蚊帳に寄す風薄みどり
◼️秋
正面に昼月のっぺりいい温泉(ゆ)であった
どかどんと田畦に咲いてまんじゆさげ
鳥威しひねもす金ピカ田んぼの中
願い数多の七夕竹と云へば病院
蜻蛉の影投げかけて蓮(はちす)の上
朝顔の押し広げたる花の淵
窓枠のパテの真白き秋旱
船上のデッキひろびろ秋乾く
お茶の水ムーンライトと云う茶店
三日月の傷を眉間に俳優(わざおぎ)や(月形龍之介)
お茶の水駅前良夜の待合せ
お茶の水駅前良夜のランデブー
十六夜の水母来たるは冥土より
無言にて残念無念の無月かな
雨嫌ひ真夜中の月遁走す
宵闇の迫ればフランク永井の歌
云うてみる嘶くやうにタイフーン
鮭颪羆の谷を通り抜け
芋嵐そっちの方へ意を変へて
桟橋は水に浸かりて雁渡
秋雨は投げやりな雨もう上る
秋霖のつつつと草を土を打ち
愚図愚図して行く気失ふ秋曇
稲妻が切って捨てたる太刀の跡
秋夕焼ひょっこりひょうたん島の沖
下山行絶えず濃霧に遮られ
道探す滅法深き霧の中
芋の露揺らしてやるのももう飽きた
秋川の流木流れ着きしまゝ
秋川の渦巻く処しゃがみ見て
秋川の渦巻く処じっと見て
水澄みに澄む大川でありにけり
瀬音立て大井支流の水の秋
大川は無音に徹し水の秋
これ以上透ける筈なき水の秋
あちこちに草突っ伏して秋出水
畳なはる秋山模糊と遠江
ケーブルカー乗り継ぎ登る山の秋
粧う山真正面にケーブルカー
刈田道脇をちょろちょろ川の音
穭田のちょぼちょぼ遍き光の中
秋の海礁に祀る弁財天
秋の田の百人一首はこれ取らねば
盆荒れの江之島沖に舞へる鳶
足跡の何處までつづく浜の秋
秋潮が礁を打てる音たぷたぷ
干柿にふすぼる如く盆地の日
皮を剥くことの単純きぬかつぎ
むらさきに溺るゝごとく菊膾
ご自慢の新蕎麦打って流行る店
勉学子の夜食に大きおにぎりを
川沿ひに灯の点く湯町親しめり
パタパタとおすもうさんの秋団扇
難読の一字ありけり秋扇
秋簾傾き放題釣具店
火恋し恋しと寄れる炉端かな
植木屋の代も変りて松手入
はらはらと松葉零せる松手入
よれよれになりても案山子なほ佇てる
苔庭に音の吸はるゝ威銃
コンバイン日がな音して扇状地
空ら響きして脱穀のコンバイン
種採の素顔を秋の日に浮かせ
妻記すメモ書きを読む賢治の忌
糸瓜忌の屋根這ひ廻る糸瓜づる
鬼やんまかっと目開き死んでをり
塩辛とんぼ敏感にして日の翳り
その辺り一遍見たきりかげろふ死す
落蝉に係わりのなく発てる風
耳許にその声淡く残る蝉
よく通るかすかな声で暁蜩
残る時間百も承知でおおしいつく
蟲すだく原っぱ歳々無くなりて
しくしくと痛む奥歯や虫しぐれ
こほろぎの貌思ひ出す音色より
雑音に過ぎなき声や青松虫
鉦叩虚子を忘れてゐて久し(嘗て 虚子の世さして遠からずの波多野爽波句有りたれば)
チョンギースと長鳴き心に沁みるなり(螽蟖)
ガチャガチャと麻雀してゐる轡虫
きちきちと云うて飛ぶ虫ありにけり(飛蝗)
その不様みんなが囃すおんぶバッタ
害虫の顔のありあり実盛虫
又の名の拝み太郎を拝命す(蟷螂)
暗がりに異様な形して隠座頭(茶立虫)
悪童の矯めつ眇めつへっぴり虫
鉢の土空ければとび出す柚坊が(芋虫)
髭長のいとどか風に吹かるゝ図(竈馬)
小癪にも溢蚊わが顔刺しに来ぬ
螻蛄鳴くや荒唐無稽な声発し
こゑ殺し地虫鳴く夜の腹話術
実際は螻蛄の声てふ蚯蚓鳴く
稲雀悪事働くやうにも見え
大食の鵯(ひよ)の図体他を圧す
大食の鵯(ひよ)来て啄む実南天
どう見ても椋鳥は小心持ちの鳥
鵲に纏はる蘊蓄聴きゐたり
鉢巻してブナの木突っ突く鳥ならん(啄木鳥)
渡り鳥撮らんと人の頭数
まだ見えて居るなり里を去ぬ燕
譬ふなら帰燕の軌道ブーメラン
鰡飛んで横濱未来都市の空
鰡飛んで横濱未来都市夜明け
鯊釣や缶からひねもす前にして
捌く前真鰯の眼の充血す
鮭昇る川沿ひを吾も又上る
太刀魚の伸びきりし体船端に
馬肥ゆるおすもうさんも又肥ゆる
猪の賢さを云ふ婆再三
踏ん切れず迷ってばかり穴惑
鳳仙花「あの娘が欲しい」はもう止めよ
白粉花やたらに咲いて安っぽし
鶏頭の本数数へる迄もなく
雁来紅その顛末は無惨なり
コスモスのもたれ合ひつゝ花了る
コスモスや一天抜ける許りなり
蘭展の変てこな蘭人集り
柿紅葉一心不乱に掃く下男
石畳銀杏黄葉に埋もれけり
散るいてふ水舎すっぽり包みけり
黄落の堀割巡る手漕ぎ舟
柳散る千代田の城の奥深く
一葉落つ慧可断臂図を心中に
だだっ広き皇居広場や新松子
底紅に無音の雨や玻璃戸越し
木犀に錆色の雨一日中
廃屋に近き母屋や竹の春
木の実独楽その人の人となり語るかに
藤の実や抜刀気合ひ諸共に
団栗がどっさり捨てあり搦手門
椎の実のここだく大使館門前
実を降らす榧は錆つく木となれり
茱萸えぐしへどもどしてゐる子が沢山
これから下山この雨上がれ山ぶだう
濃紺にひたすら無心の桔梗なり
金気水稲株犯し始めけり
初氷手水鉢より外し来ぬ
狐火に千住の狐書き足して
つららつらら天地無用のつららなり
降り出してゑのころ草にまろぶ雨
朝(あした)まだ何時迄咲くやブルーヘブン
噛みついた虫何だろう潰したろ(大阪風に云ってみたくなった)
大阪や夕霧逝く日暗澹と
良寛忌てんてん手鞠手が外れて
実朝忌今に引き継ぐ万葉ぶり
義士中の義士でありしが義仲忌
義仲・巴・芭蕉と連なる線いつぽん
べい独楽にべい独楽重ぬをガッチャと云ふ(子供用語)
男(お)の子の面目ペチャを自在に繰れること(ペチャはべい独楽の背丈で、かなり低いベーゴマで攻撃力は最強である)
ぱんぱんに強(こは)き水張り海蠃(ばい)の床(とこ)
海蠃打ちが番長面して一稼ぎ
べい独楽のちんちろちゅうは足攫い(ちんちろとはペチャの謂。独楽の尖端をヤスリ等で尖らしたもので、背丈は低く床に食い付き相手のベーゴマを弾き飛ばすもの)
腰重き高王(たかおう)中高(ちゅうだか)取って投げ(高王、中高は背丈の謂)
べい独楽の蘊蓄聞かせ老の春
【註】嘗つてベーゴマ仲間に歯科医の息子が居り、それが歯を削る器械を使いちんちろ(ペチャ)を作り、おお目玉を貰ったことがあった。近所のご縁で今、その息子の子供に歯を診て貰っている。嗚呼。
◼️相撲
早いもの呼び出し次郎ことし定年
豊昇龍こなすテッポウ五百回(霧島戦)
おお玉鷲四十歳のこのすもふ
自己暗示おのれにかけて初日(しょにち)のすもふ
こんにゃくのやうに押し込められても勝つすもふ
のけぞっても重心ぶれ無きすもふとれ
わが贔屓の気負わずにゆけ琴櫻
翔猿戦能登復興の大ノ里(初日黒星)
ことしもや翔猿・宇良は曲者ぞ
(ことざくら)あはてずにとるのが横綱大相撲
豪快な突き押しすもふを玉鷲は
王鵬のぴちぴちすもふあれ見たか
大栄翔の一生懸命は誰にも明らか
昨年一番伸びた力士は王鵬よ(尾車親方談)
希望もたらす若元春てふこの字面
王鵬は今年上位戦の目玉になりさう(尾車談)
翔猿はピストルみたいな力士である(私感)
翔猿は客沸かす相撲今日も又
三連敗の後の霧島九連勝
霧島に食いつかれぬやう高安は(勝者は霧島)
期待せり宇良に潜られたりせぬ相撲(王鵬戦)
強き視線ぶつけて今日も豊昇龍
不覚にも暗褐色の負けすまふ
番付もちう位なり一山本(一茶句に「目出度さもちう位なりおらが春」あれば)
◼️冬
ささくれ立つ銀杏枯木を過(よ)ぎる日輪
日めくりに大寒の文字黒々と
上げ潮に鴨町川を遡る
海岸沿ひ大根櫓の日南線
石蕗が咲き舟立ち寄れる島日和
マーガレット意気消沈の霜夜なり
人生は半分酸っぱし酸茎(すんき)もまた
酸茎(すんき)漬やんちゃな嫁程すっぱしと
初心不完徹まはれ右の年なり
粉雪を吹いて確かむからから度
芙蓉の実小春日和に洞然と
風邪薬効くの効かぬのどっちなんだい
息白く参ずる座禅は建長寺派
振り飛車に頭悩ます懐手
静岡匂の苗木何とか根付いたか
天候と歩数のみなる日記果つ
賀状書く親戚筋を手始めに
臼杵が通路を塞ぐ年の市
吹きさらしにある日突然門松売る
バルコニーから白波一望年の宿
小作りに門松二本飾り了へ
年の火の紅(くれない)映る火掻棒
年の塵すすすさささと掃納
年の火のどどどと落ちて焚き終(じまひ)
ぶり返す寒気度々避寒宿
びっくりする赤さの鳴戸巻(なると)晦蕎麦
探梅の遠回りして山の野辺
身ぶるひして海より上がる寒泳者
今日もまた水雷艦長冬休
寒釣や露伴の幻談思ひつゝ
夜咄や声をひそめておしら様
竹馬が上手になったと駈けて見せ
竹馬の乗り降り上手とほめてやり
雪丸げずいずいずっころばしの歌が出て
苦労して作り上げたる雪兎
シュプールの野をへめぐりて自然体
フィギュアスケートスピンをもって完了す
ラグビーのスクラムみしと組み上がる
先づ形目鼻付けるはその後だ(福笑)
先づかたち目鼻の配置はその後よ(雪達磨)
燈籠を海辺に並べ敷松葉(伊藤博文邸)
カトレアの口紅むらさきビニールハウス
横濱の坂東橋のお酉さま
帯解は遠き昔のことなれど
山門をすり抜ける風終弘法
冬至湯に何かリセットして退出
大空へ鶴が羽ばたく銭湯絵
焼き過ぎの潤目を噛めばかったるし
くちゃくちゃと歯に粘着す焼潤目
寒鯉は川底をゆく潜水士
干物の氷下魚を焼けば湖の味
捌かんか海鼠の頭(かしら)をひっ掴み
十三湖蜆がとれて出稼ぎ止め
牡蠣割女何とかかんとか云ひながら
寒蜆砂地豊富な枝川に
松葉蟹タグを付けられ出荷待つ
鰰の羽ばたき音頭とる如く
凍蝶が羽バタつかせ石の上せ
冬の蜂巣守る気力未だありぬ
綿虫の着ぶくれ奴風に乗り
冬の蚊の亡霊めきてついと消ゆ
枯蟷螂センサーライトの感度持ち
萎れぬやう新聞濡らしてシクラメン
ポインセチア円形球場見ゆ茶房(羅馬)
水仙や一年二組の渚ちゃん
室咲きのぼってりストック伊戸土産(房総館山伊戸集落)
はや霜月グラディエーターII上映
沖乗りの船が北上石蕗の花(北前船)
音無しの構へと云はん枇杷の花
枇杷の花古武士然たること止めず
息に息対峙ひひらぎ咲ける日の
山茶花の砕かれ心密やかに
花八手小寒き雨に白誇り
冬青の実まばらなるそれが心情
髪たとふなら霜枯の泡立草
木の葉散るいろはにほへと学ぶ子に
朴落葉ばっさばっさと踏みゆけり
いっぽんの杖を頼りに冬木道
寒林の向うに根岸競馬場
鱈ちりの鍋物白煙どっと上げ
カリフラワーに代はり目下はブロッコリー
大根擦り白子の上にこんもりと
人参のゴロゴロカレー平らげぬ
正月用慈姑高くて見送りぬ
寒芹を洗ふ水音ぴしゃぴしゃと
冬苺スカイベリーは頼もしく
冬苺今の流行りは栃おとめ
木守柿見上げて雑談村の衆
冬林檎この先だうなる温暖化
函買ひの蜜柑を妻に大奮発
麦の芽や渡瀬川の川向う
悴む手でガチャりと湯屋の下足札
寒鰤の煮付けにご飯お代わりす
狂言の足袋ひたひたと橋掛かり
年の瀬にゴミ出し当番廻り来て
狸の腹象の尻見て浮世風呂(亀遊館)
身をよじり我は風の子寒風裡
◼️新年
矢の如し一月五日の救急車
欽ちゃんがテレビに出て来て成人の日
あらたまの風呂屋の彩光午後三時
ぶらと来て湯ぼてり鏡開きの日
ぐるっとなー大平台のヘアピンカーブ(大学箱根駅伝)
小涌園前の大歓声大拍手
立教大快走山での四人抜
さあやって来た立教大大躍進
青山学院芦ノ湖湖畔で笑ふ為
日体大ここまでが明日シード圏内
安心して卒業出来るよ駒沢大(一年生活躍)
初日了ふ明日の復路が楽しみよ
唄ひ初め聞くよクミコのサン・トワ・マミー
新春東西笑いの殿堂テレビ放映
鈴本の渋い後ろのかべの色(演芸場)
こわいろ芸団扇でパタパタ鶏の鳴く
あれから何年相も変わらぬ猫八芸
江戸屋猫八猫と羊をめえーめいと(猫は短く長く 羊は太く短く)
ケキョケキョホーホケキョ江戸屋の伝統はつはるうぐひす
聴く方も難儀「長短」てふ落語(柳家さん喬)
足許から鳥が発つやうはつ春漫才
三ヶ日絵本にあるよな乙な月
パタパタと扇子で小田原遺恨相撲の段(神田伯山)
神田伯山荒岩vs雷電為右衛門
「これがスタジオにはない盛り上がりだ」とまさぐるようにLive新宿(神田伯山)
好晴れの五日出掛けて亀遊館
地ビール作りしながら伊勢海老食はす店(海鮮丼)
顎外さむばかりの古女にとりかかり
あらたまの絹の光沢持つ繭玉
正面に湯呑と箸置く四方の春
昇る日や海に遍くお元日
側溝より白煙上がる大旦
昨年の二日は何をしていたっけ
散歩先寝床に思ふ二日かな
寝て食って無為に遊んで三ヶ日
三日早や映画心の蠢きぬ
地下鉄の出口を探す五日かな
釣り堀を車窓より見る六日かな
ぎいと鳴く鳥の来てゐる七日かな
城郭の姿正して松の内
大正月ありてのそもそも小正月
松過ぎの鉛筆削り空廻り
松過ぎの開け閉め出来ぬ古門扉
魚(いを)好きの頭(かしら)正月愉しめり
骨正月築地通ひの祖父たりき
くうと鳴き打ち過ぎるもの初御空
淑気満つ堰にたっぷり溜まる水
初茜さすと云ふより貫けり
船笛の太く短く初東雲
つつつつと湖面結氷初日影
初凪の江之島丸ごと海の上
萬物の息吹き返す御降に
民間衛星打ち上げ成功星新た(初夢に)
初霞汽笛ぼうっと東京湾
初松籟嘯くやうに吹くことも
初松籟ずんずと道は林抜け
鏡餅私の贔屓は鏡里(「鏡」絡みで云へば、あのアンコ腹の横綱)
ちゅんちゅんと朝告げ鳥は井戸端に(初雀)
青葱を横たへ俎始かな
真似事の屠蘇とて何処か有難き
長男に先づ注ぐ年の酒の音(屠蘇)
雑煮抓む湯気の中なる面構へ
お雑煮を食うぶお箸の片ちんば
雑煮餅舌もねっとり同類ぞ
数の子や重箱に目を遊ばせて
満遍なく五万米は嚙めと祖母の教え
黒ダイヤモンドめくなりこの黒豆
草石蚕てふおもしろきもの買うてみる
草石蚕てふ形も味も変てこで
寺前の神社に参り年の礼
お隣へ訪問礼者らしき者
年玉に美雨としたためお元日(孫)
いつまでも続く年賀状といふやりとり
年賀状ことし限りと云うのも来(く)
常夏のオアフ島より初便り
元日の初電話にして長電話
初刷を買ひに出掛けぬコンビニ迄
初刷の新聞あちこち読み漁り
初刷の新聞二、三紙抱へ来て
諸行事をみんな絵にして初カレンダー
妻書き込む五年日記と云う奴を
日めくりの暦千切るや慎重に
すうすうと昔のまんまの初湯殿
湯加減はこんな処と若湯かな
床へ塵きらきら舞はせ初箒
ていねいに昔の人は初鏡
部屋隅の埃かぶれる初鏡
真中に弁財天や宝船
しとしと雨朝っぱらから寝正月
初針や母は「直し」で生計立て
玄関に散らばるズック新年会
読初めの黄表紙岩波文庫本
初夢に股旅物の錦之介(萬屋錦之介)
初笑顔声帯模写の江戸家猫八
泣初の終(しまひ)はしゃっくりしてけろり
初喧嘩映画の中の錦之介(萬屋)
長編の映画三日の股旅物
姫始古式ゆかしく深雪の夜
初日の出正月様を正面に
旅始雪嶺不二を車中より
初旅や新幹線の窓越しに
乗初の京急川崎後にして
初乗の電車すと出て大師まで
初飛行音の接近東(ひんがし)より
御用始空気のうまい霞ヶ関
飛行機のビラ撒きゆける学校始(昭和の尋常小学校にて)
新年会崩れのダベリ居酒屋にて
雪ちらちら新年会の帰り道
遠来の客のあいさつ初句会
一音の選句の名乗り初句会(濱編集長 岡田鉄さんの「テツ」の一語)
初相場ちんぷんかんの「株」用語
初荷旗ハタハタ靡かせ東海道
初売りの加湿器上ぐる白けむり
初売のライト煌々ヨドバシカメラ
ガサばってめでたき色味の福袋
目力の強さうな奴福達磨
送迎バスひっきりなしの達磨市
買初めのセンサーライトヨドバシにて
気っ風よき小柴の漁師漁始
鍬始カキンと一つ石の音
初山に雄叫び挙ぐる鳥は何
初漁の真鯛を捌く船の上
獅子舞の獅子は消防団員にて
獅子舞の推参二日の午前中(町内巡回)
オブラートに包む四日の粉薬
坊主めくりありゃまぁ等と呟きつ(歌留多)
福笑ひ顔から鼻が遠ざかり
福笑ヘタクソを絵に描いたやう
絵双六三つ進みて大井川
福笑そのままにして子供部屋
流行りの季語投扇興の句は撰らず
福引のがらんごろんとどぶ板通り(横須賀汐留)
弾初の顎を当てがふバイオリン
謡初しもた屋裏の一軒家
スイミングの痩せ、太っちょの泳初め
左卜全惚けて笑ひ取る年初
初っ端から五十鈴出て来て初芝居(山田五十鈴)
三平の初席辺り見渡して(昭和の爆笑王 林家三平のよし子さん)
へちゃむくれ顔の円鏡初高座
いいやうに解釈をして初御籤
鎌倉迄山を歩いて初詣(昔々大三十日金澤文庫から山伝ひに)
初護摩のけむりの向うより円歌
白朮火をくるくる廻す又一人
これみんな破魔矢納めに来し人達
七福神詣えらければ順番制に
臨済宗建長寺派なる円応寺
建長寺傘下の寺の初閻魔
浅草寺鳩も出ばって初観音
何となく行先決まり初大師
亀の子せん土産に亀戸初天神
縛られ地蔵とげぬき地蔵初地蔵
初読経南無からたんのとらやーやー
七草や笑顔揃ひし朝の卓
海の風とんどのほむら一煽り
長沢や雪のちらつくどんど焼(京急 横須賀 長沢海岸)
紛れなきとんどの火の粉でありにけり
我流にて妻の作りし薺粥
福笹を提げ来る足許弾む也
宝恵籠の夜半と呼ばれ尊ばれ
餅花のもちもちするを団子状
俳諧の詠み手押しかけちゃっきらこ
なまはげ詠む面々鉄ちゃん、地元の衆(濱主催松崎鉄之介の仲間裡の愛称は鉄ちゃん。地元は秋田支部)
成人式祝ふ親父の目出度顔
一月場所分厚き拍手打つ力士
大坂や夕霧逝く日暗澹と
良寛忌てんてん手鞠手が外れて
実朝忌今に引き継ぐ万葉ぶり
義士中の義士でありしが義仲忌
義仲・巴・芭蕉と連なる線いっぽん
初声の鴉越えゆくトタン屋根
cock-a-doodle-dooとは外国(とつくに)(初鶏)
初雀参拝の人何のその
初鴉平屋ばかりの我が町内
初鳩や鎌倉宮の大臣山
嫁が君今夜は二日と心得て
楪は常緑高木にして目出度し
裏白の剥がされがちに浜の風
裏白や熊野神社の急かいだん
福寿草笑ひの絶えぬ福禄寿
一生に一度の事よ若菜摘
御鏡の上に橙ちょこなんと
葉牡丹を早めに飾りペットショップ
啄ばまるゝことなど決してなき萬両
葉牡丹の三本仕立て三渓園
千両の枯れ茎かりかり刈り取れり
町内でめんこの修行(けいこ)松の内(懐古 少年時代)
◼️雑
燭点し十二神将籠る堂
座布団を枕替りに居眠れる
我が生き様眼横鼻直もっぱらに
目の前をぶらっと過(よ)ぎるもの銭湯(亀遊館にて)
一っ風呂浴びに銭湯亀遊館
六角精児の呑み鉄本線・日本旅
ディーゼルに乾杯!日南線の旅(志布志)
よく見ると鯉は不細工でも可愛い
ぶらりと寄る油津「旬」といふお店
油津で呑み鉄 養鶏地鶏の店(地鶏刺し)
敷地の水使い焼酎作りとぞ
この水でチョウザメ養殖余録とす
ほほえましき挿絵はリハの通信欄(介護手帳)
新婚ではないが鬼の洗濯板を見に(日南海岸)
こそばゆき高齢入浴優待券(530円のところ230円に割引 但し月に一回)
蔦重の吉原案内ハウツウ本(蔦屋重三郎)
波瀾万丈 蔦重 栄華の夢話し(大河ドラマ)
知恵絞る蔦重江戸のメディア王
【参考】蔦屋重三郎 略称 蔦重
生まれ: 1750年1月7日, 吉原
死去: 1797年5月6日, 江戸
代表作: 『吉原細見』
影響を与えた芸術家: 大田南畝、恋川春町、山東京伝、曲亭馬琴、喜多川歌麿、葛飾北斎、東洲斎写楽など
生誕: 喜多川 柯理; 1750年2月13日; 新吉原
著名な実績: 版元、狂歌師、戯作者
御蔭で私めは学生時代から狂歌、黄表紙、青本、赤本、戯作本、滑稽本を読み漁った。一茶は高校時代から。明治時代では成島柳北に惚れた。江戸では東海道中膝栗毛。絵双紙。
【漢字部首がらみの俳句】
又ーマタ 一の目が出て双六の藤沢宿
厂ーガンダレ ガンダレの雁風呂流木焼べ足して
几ーカゼカンムリ カゼカンムリ凧正月の空高く
オオザト オオザトの郭公結構な声で
口ークチ クチにして囀りの小鳥たち
口ークニガマエ クニガマエ囮使って勝つ戦(いくさ)
宀ーウカンムリ ウカンムリの案山子の翁おかんむり
虫遍の蛾、蛆、蚤が泳げぬ者
以上
(妄言陳謝)
俳句年鑑 2025年版 ◆全国結社・俳誌一年の動向◆精撰
俳句年鑑 2025年版 ◆全国結社・俳誌一年の動向◆精撰
私なりに共鳴するものにもう少し作品しぼってみました。
(作者名は原著を参照ください)
◼️銀髪をめっぽふ振って翁草
◼️蝋梅は疲れたやうに咲いてゐる
◼️あぶが来て藤棚の下譲りけり
◼️一球に泣き少年の夏終はる
◼️蟇投げつけられしやうに跳ぶ
◼️戦争がすだれのやうに映像美
◼️ハルジオンその中泳ぎ来る柴犬
◼️姉妹してイソギンチャクをつぼまする
◼️寝台車霧の彼方へラストラン
◼️風死すやはたりはたりと象の耳
◼️春風やタンゴは急に顔そらす
◼️鈴虫の捨てし辺りに鳴いてをり
◼️雪降って序の舞やがて修羅の舞
◼️利かん坊の泣きっぷりよし雲の峰
◼️まだ生きますと百歳の賀状くる
◼️前髪の一ミリ大事梅雨に入る
◼️冬来る釦しつかり縫ひ付けて
◼️再試験再再試験油蝉
◼️なめくじり家は前世に置いてきし
◼️夕焼を戦後とおもふ鴉かな
◼️海市立つ輪島穴水珠洲七尾
◼️病に名つきし安心返り花
◼️とっぷりと山が隠れて雪雪雪
◼️墨作り耳の裏まで汚しゐて
◼️プールから上がれば空つぽの私
◼️夏服の真白が派手と思ひけり
◼️冬ふゆフユ楽しきことのありさうな
◼️ぷいと反転多感な金魚と暮らしてる
◼️戦場に行かぬ一生クリスマス
◼️くちなはの呑みたるもののなほ動く
◼️蒲団とふ斯くも芳醇なる奈落
◼️温石やたとへば親のありがたみ
◼️砂払ひまた濡れに行く水着かな
◼️世界中に黴が広がるやうな日々
◼️下駄の音絶えて郡上の水の秋
◼️蛇衣を脱ぐ露天湯の岩に脱ぐ
◼️伊勢海老の髭を大事に糶られけり
◼️初桜ニューヨーカーと歩きけり
◼️たんこぶを見せに来る子や風五月
◼️風花や書かねば易き字も忘れ
◼️もうここで良いかと初日拝みけり
◼️侘助や丈山かつて三河武士
◼️食積や絶えて久しきはかり売り
◼️指揮棒の思ふ存分春を呼ぶ
◼️白梅の一輪勇気貰ひたる
◼️をみなよしをとこなほよし風の盆
◼️コスモスに少し手荒な今日の風
◼️語るほど言葉はやせて田螺鳴く
◼️海老反りの斬られ役へも花吹雪
◼️炎天を来て十分の面会日
◼️勇ましき言葉の骸敗戦忌
◼️いつか死ぬわれとも見えず初鏡
◼️噴水のアドリブ風が歌わせる
◼️低く舞ふ鳶を横目に抜手かな
◼️夜蝉ふと妻に先立たるる予感
◼️浪人と決まりたる子も雛の客
◼️涙にも色ありクリスマスローズ
◼️なあと言ふ相手のをらぬ秋の暮
◼️雄三通りサザン通りに秋の風
◼️はららごの膜に血管しかとあり
◼️揮発油に活字洗ひぬ夕薄暑
◼️生蛸に舌吸はれたりソウルの夜
◼️炭酸で割ったやうなる冬銀河
◼️右あしの都合と左あしの事情
◼️杳として死すまで戦後梅雨兆す
◼️諸葛菜逢つておかねばならぬ人
◼️紅花や酒田に残る京言葉
◼️おほひなる冬青空のうつろかな
◼️頭数かぞへ直して西瓜かな
◼️川の色一気に変はり時雨来る
◼️冬籠して悪書とも親しめり
◼️探梅の火に当たらせてもらひけり
◼️太棹の煽るじょんがら夏旺ん
◼️孵化槽に鮭の目動く雪催
◼️露の世としりてこの世のおもしろき
◼️せせらぎはよろこびの音犬ふぐり
◼️豆粒となりし消しゴム合格す
◼️春著着て行く先々の鏡かな
◼️雪下ろし雪切って捨て切って捨て
◼️つひに皆のつぺらぼうの踊かな
◼️初鏡帯の高さのこれでよし
◼️能登へ発つ二日未明の給水車
◼️尾びれなき鮪の顔の錻力めき
◼️一輪は一語に似たりかへり花
◼️これよりは老いを楽しも猿酒
◼️草取は考へ事をする時間
◼️凌霄花道を譲れぬ気骨らし
◼️見つめゐてだんだん滝に呑まれゆく
◼️小糠雨はちきれさうなものの芽に
◼️欲ハナク丈夫ナカラダ草毟る
◼️酒旗なびく水村夢に夏の旅
◼️箒目を正して終へぬ松手入
◼️初鏡母似の顔も八十に
◼️キンクロの白黒の白寒弾く
◼️鹿の目に囲まれてゐるまくらやみ
◼️ドニエプロペトロフスクの長き冬
◼️火がつけば直ぐに身の丈大どんど
◼️桜餅香る深夜の守衛室
◼️息止めて押す実印や秋彼岸
◼️でで虫を手に専門は物理学
◼️聖五月ピアノに映るピアニスト
◼️母よりも姑の味に節料理
◼️夜蛙や水田に揺るる家あかり
◼️八月や行ずるごとく過す日日
◼️掬はれて名前を貰ひ屑金魚
◼️江の島へ橋を渡れば年新た
◼️公園の水辺人来る小鳥来る
◼️スプリングハズカムとハムストリング
◼️万緑に染まる牛車の轅かな
◼️翡翠のダイブ一閃水ぬるむ
◼️獰猛な香の香水を隠し持つ
◼️句作りは言葉の積木小鳥来る
◼️温め酒とことん愚痴を聞くつもり
◼️捨てるため拾ふ棒切れ十二月
◼️病院食余さず食べてお元日
◼️水槽のやうなコンビニ星月夜
◼️トラックで売る仏壇や能登しぐれ
◼️出疲れと一笑されし春の風邪
◼️身の丈で生きる身軽さつばめ来る
◼️春の浜靴を逆さに砂払ふ
◼️山芋を摺りまつ白をいただきぬ
◼️レジ袋大が一枚春キャベツ
◼️庭に蛇三日も経てば往ぬだろう
◼️降る雪や昔ばなしをするように
◼️鳥渡る漁へ出ぬ日も海を見て
◼️このあたりの者にござると御器齧
◼️熱燗や嘘のひとつも上手くなり
◼️指で拭く人形の目の春ぼこり
◼️包丁を持ったまま聞く日雷
◼️新涼やまだかほもたぬこけしたち
◼️糞掃の袈裟美しや奈良の秋
◼️寒林を素読のごとく歩きけり
◼️退勤のひとりひとりの背に西日
◼️夕市の𩺊を取的鷲掴み
◼️猟期終へぐうたら犬に戻りけり
◼️百歳の桜赤児のやうに咲く
◼️ちょっと汗歩き続けてたんと汗
◼️風すべり風すべり水澄まんとす
◼️さへづりのなかへなかへとさへづりぬ
◼️どことなく男雛は楽をしてをりぬ
◼️水中よりドラマ見てゐる水中花
◼️パリ祭や断頭台は移動式
◼️スポイトに醤油おでんの試作中
◉書初の大腿骨のやうな一
◼️この網戸外れ易くて要注意
◼️まず洗う気の強そうなトマトから
◼️覗き込みこれとこれこれおでん鍋
◼️ゆっくりと線香の香のバナナ食う
◼️蚊柱の立つ大仏の耳の横
◼️燕飛ぶ定規で線を引くやうに
◼️禅林の黒塀に消ゆぼたん雪
◼️さしあたり西空へとぶ曼珠沙華
◼️ヘブンリーブルー一輪萎む一輪咲く
◼️冬ぬくし思ひ出たどる解き物
◼️東京の金魚田のある町に住む
◼️小綺麗に生きたしと着る白セーター
◼️今日ひと日笑へ笑へと鼓草
◼️生焼けの餅持ち帰るどんどかな
◼️アネモネや意地悪するは人も神も
◼️ぽつんと雨ぽつんとひとり夜の秋
以上
(妄撰陳謝 高澤良一)
俳句年鑑2025年版を読んで 高澤良一 (2022-10 ~2023-9)角川文化振興財団
俳句年鑑2025年版を読んで 高澤良一
(2022-10 ~2023-9)角川文化振興財団
共鳴句を挙げる。作者名は原著を参照ください。
◆2024年100句選 小林貴子選◆より
新年
どの子にも空は胸かすいかのぼり
春
後ろから春一番の羽交締め
春手套ぽんとヘルメットの中へ
子守唄廃れ子も減り桃の花
夏
瀧口の空へしぶきてゐたりけり
南無三とばかりに身投げ夏芝居
あめんぼにあめんぼが嗅ぐ如く来る
万緑へからだの線を拾う服
緑蔭の家族写真に知らぬ人
秋
秋風を聴く流眄の白孔雀
みなしやがみたる迎火の育つまで
案外に快適さうや猪の罠
零余子十ほどへ窪めて掌
横たへて白りんだうの屍めく
冬
日輪を貼りつけにしてふぶきけり
猟銃折り一弾二弾込めたるよ
除夜詣熱海芸者と道連れに
漂へる間も鳰どりの目のきつと
冬すみれ一会といふは過ぎてこそ
◆年代別 2024年の収穫◆
80代後半以上
ライラック活けて挨拶一行詩
女ひとり泣かして夢のあけやすし
横文字の苗札を土深く挿す
東京が好きで老いゆくクリスマス
命ある限り桜の咲くかぎり
いもけんぴ食べて正月過ぎてゆく
正月は何故か淋しいではないか
青春の香を束ねけりフリージア
十字架はまつすぐにのび冬の雨
マフラーを大きく巻いて雑踏に
緑蔭に郷土史学ぶパイプ椅子
とつぷりと山が隠れて雪雪雪
熱湯のあぶくすこやか大つごもり
貝はみな口を閉ざして炎暑なり
わが顔の駘蕩とあり初鏡
梅ちるやとうんとうんと晝の波
山国の雲のあそびよ鱶・勇魚
空箱が紙一枚となりて冬
ここにまた土竜の盛りし春の土
世に遅れ人に後るるショールかな
晩学のスマホ塾なり万愚節
六月や山彦返へす恐山
80代前半
燦々と青葉にまみれ吉田山
雪の夜の蜘蛛がするする目の前に
高千穂の下山に交はす御慶かな
雪像のゑびす大黒篝燃ゆ
手の螢ぽつと昔を照らしけり
しぐるると徳利をまた傾けぬ
江の島へ橋を渡れば年新た
かはせみの刹那の影を目の端に
だんだんに拳にちから滝の前
蜻蛉の顎つきだす秋の風
星吊す糸の輝く聖夜劇
鹿がつと公家顔あぐる夕霞
70代後半
身を入れて骨折装具凍てかへる
保育所の消えぬ一灯夏至の雨
なだらかに海へ傾き大根畑
蚕豆の莢もくもくと太々と
硝子器に根もしろじろとクロッカス
板塀を横に這ひゐる春の蠅
行く年が訊ぬ何してきたるかと
恋猫の道の向かうへ行ったきり
こんなにも青き冬空地震止まず
また増える蛸足配線春たけなは
渡り鳥丸太幾とせ横たはる
人ごゑに山蛭降ってくるといふ
雑煮椀しづかなる老い頂戴す
要らぬ子がここまで生きてさくらんぼ
紫陽花や単線海へ出るところ
刺身酢漬唐揚今宵鰺づくし
春炬燵指相撲ならお相手す
嚔して次の嚔を待てる顔
十二月となればいろいろ諦める(私(高澤)なら「十二月と」のところ「十二月とも」と遣りたい)
70代前半
戦争がすだれのやうに映像美
どんぐりは神さまの色知らんけど
両手広げて水鉄砲の的となる
引く波の残す光や春渚
味ぽんをしゃばしゃば振って豊の秋
お坐りをしぶしぶの犬クリスマス
さびしらを点すごとくに鹿の尻
蛇穴を出れば戦争してをりぬ
かけ廻る枯野に青畝峠をり
ぱつと散る蠅に戻る気あるらしく(作者には申し訳ないが、私なら真逆に遣りたい。ぱつと散る蠅に戻る気ぜんぜん無し)
錆び始む画鋲の頭梅雨兆す
遠足の列がみづうみ離れけり
雪国や雪の底より除夜の鐘
60代後半
角乗の飛沫(しぶき)一列夏燕
曇り日の色を持たざる石鹸玉
水つぽき雪に純白霰かな
花冷や黒ネクタイはつるんとす
鉄片のやうに蠅ゐる花八手
選ばれて水ごと買はれゆく金魚
蝦夷栗鼠の正面のかほ冬近し
大関の滅法強し草相撲
秋冷鐘韻爆心地の黙祷
春なれや鳥の潜くも羽搏くも
しばらくを花喰ふ鳥として雀
枯山は遠き列車の音を容れ
野馬追の長躯の旗のなだれこむ
60代前半
ボロ市の転がし売りの万華鏡
叩かれて家になる音栗の花(最近流行りの工法に基づく家の建築。鉄筋並みの強さを持つ建材の開発により建築現場は組み立てだけの作業となっている)
青饅に昔の部下の死を聞きぬ
鞦韆や老いゆく国にわれら老い
盆がくる無言と無言わらひあひ
大分の胸のはだけて木の芽雨
我が影を波に消さるる寒さかな
晴れてゐる方が行先春ショール
さよならの片手に残る寒さかな
それぞれの椅子を選んで冬日和
はんざきのまだくらくなるくらくなる
50代後半
からびてはまた波にぬれ桜貝
雪へ雪未来を葬るように雪
飲み干して貝まだ熱き蜆汁
履きかけの靴をとんとん桜の実
遅れくる電車みな見て夜寒なり
窓開ける囀すべり込めるほど
春の風邪額に手などあてられて
50代前半
肩車して神棚に置く破魔矢
読み聞かす絵本のなかも雪降れり
梅ひらく心籠めてといふやうに
ジャンパーの目配せにソロ交代す
40代
数へ日や経のリズムで読む漢字
直角に赤き絨緞曲がり行き
春や子の描く我が顔手足生ゆ
梅見上げつつつれあひにぶつかりぬ
うとうとのかごめかごめの春ごたつ
冷房の強し字幕に追ひつけず
一張羅着れば綿虫寄りてくる
飛行機がすすむ枯木のなかの空
寒晴や尻尾を立てて歩く猫
大寒の朝日を顔にくらひけり
がさ市の包丁で切る段ボール
蒲公英の根っこ如く勁くあれ
祖母いつもぱつと踊をものにして
秋の夜の饅頭論を譲らざる
30代
朧夜は回送電車ばかり来る
あんぱんにほのと酒の香目借時
正論にホットココアの口拭ふ
20・10代
差別語の飛交ふ酒屋扇風機
コンビーフ缶くるくると開けて春
クリスマスツリー一周して帰る
白靴と歩いてシベリアンハスキー
大寒の水を叩きて鳥発てり
◆諸家自選五句◆ より
◆今年の句集BEST15-今年の評論BEST7◆ より
隣りあふ大根や葉のかむさりあふ
空調音単調キャベツ切る仕事
にんじんの皮のはらりと敗戦日
真っすぐに立つほかはなし立葵
白玉を茹で零す湯の仄青き
瀬のひかり眠し眠しと猫柳
大夏野行くや私雨連れて
杭掴む蜻蛉脚一本余し
秒針のぎこちなき音春暁
つひそこと言うてどこまで鰯雲
やどかりの小さき顔が脚の中
靴の上に置く靴下や磯遊び
月の出を三人掛けのまんなかで
戦ぎをるものの一つが蛇の舌
書きながら字の暮れてゆく桜かな
◆今年の秀句ベスト30◆
心に残る秀句
横澤放川が選ぶ30句より
秋風に一間をゆづり仮設去る
八月の太平洋からミナカエレ
月光に休ませてゐるトウシューズ
サンタクロースが米兵だったころ
子供が泣く国にコスモスは咲かぬ
ビー玉に木枯らしが眠っている
辻村麻乃が選ぶ30句より
鶏一羽つぶす相談秋暑し
タラちゃんの敬語あかるし衣被
マフラーを外し家族の顔となり
構へれば整ふ息や弓始
抜井諒一が選ぶ30句より
聖夜劇ぢっとできない羊たち
ストーブ当番一本早いバスに乗る
買ふならば派手でなんぼの水着なり
石段に踏みどころなき落椿
美しくなりたき頃の紺水着
◆俳壇動向◆
畳這う蟻に原寸大の地図
朝露や豊かに訛る牛の声
かけのぼる炭酸の泡鳥の恋
アルプスは大地の鼻梁大夕焼
雨音のうち重なれる破芭蕉
残雪を弾き出でたる熊笹ぞ
鷹湧いて湧いて一天深かりき
氷水つめたき匙が残りけり
良寛忌越後は海も雪の中
一もとの庭の茶の木に花のとき
電灯のひそかな異音さくらの夜
阿波踊ぞめき流るゝ駅に着く
よもつへと真っ逆さまに流れ星
金婚や無常迅速春らんまん
利根運河冬の表情豊かなり
また次の緑蔭めざし歩きだす
風鈴の次の音を待つ病床に
◆全国結社・俳誌一年の動向◆
吊り上げしさおのしなりや風光る
こんなにも採って良いのか蕗のたう
人参のどこまでが皮春の風邪
蒲公英の絮の宇宙を覗き込む
銀髪をめっぽふ振って翁草
煤払くすぐる天狗の鼻の穴
せせらぎに耳を遊ばせ芹を摘む
浮かびくる海女の真白き面かな
にらめっこしたら負けさう蟇
船虫の謀なき動きかな
蝋梅は疲れたやうに咲いてゐる
恙無く別れて目刺焼いてをり
あぶが来て藤棚の下譲りけり
一球に泣き少年の夏終はる
団栗拾う戦時の頃の話など
初春や鶴亀睦む輪島塗
耳やはらかく熱燗の座に着けり
ポケットの穴をまさぐる寒の入
白寿への一歩一歩や天高し
蟇投げつけられしやうに跳ぶ
戦争がすだれのやうに映像美
ハルジオンその中泳ぎ来る柴犬
見るだけの山となりけり登山帽
若冲の絵になかりけり羽抜鳥
姉妹してイソギンチャクをつぼまする
寝台車霧の彼方へラストラン
引越しの荷物こんなに夕薄暑
レジ袋は要りません熊穴へ入る
畳替へ影新しくなりにけり
遠くから手ぶらで来たる裘
けあらしに乗り込んで行く漁始
桜東風受けむこぞりてヨット発つ
雨だれは一夜に氷柱湯治宿
風死すやはたりはたりと象の耳
春風やタンゴは急に顔そらす
父の倍生きて今年の桜かな
堂々と遅れて来たる冬帽子
日向ぼこしてゐるやうな土産店
点は線線は形に鶴来たる
ジーンズに替へ稲刈に来よといふ
掃除機の吸うてしまひし冬の蠅
成人の日の空果てしなく青し
鈴虫の捨てし辺りに鳴いてをり
独唱の河鹿の声の乗ってきし
満月を共に仰ぎてけふを謝す
よく噛みて飯の甘さも寒の内
雪降って序の舞やがて修羅の舞
満月や門限のなき暮らし方
新茶供へひねもす妻として過ごす
利かん坊の泣きっぷりよし雲の峰
やらはれし鬼をなだむる鬼だまり
まだ生きますと百歳の賀状くる
目かくしをとりてこの世へ内裏雛
雛納め互ひの老を肯へり
キー叩く青山椒のにほふ指
苧の草鉄砲を打ちあへり
前髪の一ミリ大事梅雨に入る
夏場所やきれいどころもよく映り
退屈は人間のもの蟻勁し
冬来る釦しつかり縫ひ付けて
一人から広がる拍手卒業す
台風の進路予想図たぬきそば
再試験再再試験油蝉
きたかたのきつねこんこんなくゆうべ
隼の空を一掃してゆきぬ
駅弁の蓋の飯粒麦の秋
なめくじり家は前世に置いてきし
松七日机に椅子の収まりて
夕焼を戦後とおもふ鴉かな
穴惑ひ道を譲ってくれまいか
秋暑し顎のぶあつき魚煮て
大雨を呼び込みているかたつむり
海市立つ輪島穴水珠洲七尾
ころばない練習シロバナツキミソウ
火勢得て吉書み空へ舞ひ上がる
梅の花ぱっとほころぶ日和かな
石蓴汁ひと口までの生唾
組み直したる年越の榾焔
病に名つきし安心返り花
落椿ベンチの上で錆びゆける
とっぷりと山が隠れて雪雪雪
朴の花見るに朴の葉大き過ぎ
墨作り耳の裏まで汚しゐて
プールから上がれば空つぽの私
里神楽大蛇の足のちらと見え
尊徳の松に遥かな出水川
初日差す軍鶏は野太き声で鳴く
夏服の真白が派手と思ひけり
買初の鉄鍋振って八宝菜
諧謔の斯くありたしや紅ちょろぎ
本の日や町の書店の灯は消えず
頭入れ磨く便器や年の暮
シクラメン姉妹の如くならべけり
温め酒夫の手料理夫の酌
冬ふゆフユ楽しきことのありさうな
水無月や庭師きてをりおーいお茶
ぷいと反転多感な金魚と暮らしてる
年新た息災といふ宝物
水鉄砲濡るるも楽し兄妹
戦場に行かぬ一生クリスマス
くちなはの呑みたるもののなほ動く
蒲団とふ斯くも芳醇なる奈落
深夜放送まだ起きてゐる浅蜊
温石やたとへば親のありがたみ
山国は山の物もて喰積に
砂払ひまた濡れに行く水着かな
死体まで笑ひ出したり村芝居
ゴム長で籠へ蹴り込む糶の蛸
世界中に黴が広がるやうな日々
下駄の音絶えて郡上の水の秋
一畳は神の控へ座里神楽
蛇衣を脱ぐ露天湯の岩に脱ぐ
お勝手を髭でのさばる御器齧
伊勢海老の髭を大事に糶られけり
鳥雲にまあるくあらふ鍋茶碗
一生の最晩年の良夜かな
初桜ニューヨーカーと歩きけり
炎天に晒すロダンの筋肉美
地魚に始まる料理女正月
留守の間に太ってゐたる秋茄子
たんこぶを見せに来る子や風五月
風花や書かねば易き字も忘れ
払暁に言の葉かはす淑気かな
一学級くらいのすみれ日にあそぶ
老鶯の恋唄ホーを長く引き
朝顔や触診まるで大ざっぱ
もうここで良いかと初日拝みけり
侘助や丈山かつて三河武士
達磨市大風呂敷を首に巻き
食積や絶えて久しきはかり売り
ほろ苦きものを小鉢に春惜しむ
素麺を啜る相槌打ちながら
指揮棒の思ふ存分春を呼ぶ
白梅の一輪勇気貰ひたる
雪吊り日和掛け声のよく通る
白鳥の去りて小字に戻りけり
をみなよしをとこなほよし風の盆
こんなにと声のしてゐる金木犀
草ぐさのそよぎづめなり風の盆
コスモスに少し手荒な今日の風
原爆の日や収まらぬ捻子ひとつ
大仏殿越ゆる高さに松の芯
遠足の一団のあとまた一団
雨を来て雨へと返す絢燕
ドキドキは進めの合図木の芽風
歌ふとは称ふることぞ行行子
語るほど言葉はやせて田螺鳴く
漁師妻一気に捌く初鰹
風ほしいまま甲板のハンモック
籠を編む竹の弾けて涼新た
海老反りの斬られ役へも花吹雪
椿落ち身幅がほどの切通し
水源へ一里の標山ざくら
木はいつもじつと出来ない柳かな
尾と口を大事に秋刀魚裏返す
つくしんぼ枯れても袴つけてをり
双六やこの世は通り過ぎるだけ
炎天を来て十分の面会日
生きるとは薬飲むこと龍の玉
勇ましき言葉の骸敗戦忌
いつか死ぬわれとも見えず初鏡
噴水のアドリブ風が歌わせる
低く舞ふ鳶を横目に抜手かな
ひとしほに名残りの数の花菖蒲
夜蝉ふと妻に先立たるる予感
浪人と決まりたる子も雛の客
母の日の一筆箋を前にして
墓洗ふまだ空いてゐる両隣
涙にも色ありクリスマスローズ
なあと言ふ相手のをらぬ秋の暮
病室にひとりつきりの遠花火
オンライン授業馴れして卒業す
煮凝をせせりて探す鯛の鯛
遠足の遅れがちなるあくびの子
雄三通りサザン通りに秋の風
はららごの膜に血管しかとあり
揮発油に活字洗ひぬ夕薄暑
働いて働かされてかなかなかな
生蛸に舌吸はれたりソウルの夜
風流のしれものわれら青葉の下
虎落笛よもや挽歌となるまいぞ
山栗の山の吐息のやうに落つ
雨音の疎らに夜長始まりぬ
衣被つるりと夜の帳かな
青田波一輌ローカル風を弾く
無器用に世を渡り来てかたつむり
蜃気楼消えて砂漠に巨大ダム
四万十川の蛍銀座へ棹を差す
炭酸で割ったやうなる冬銀河
右あしの都合と左あしの事情
鯛焼の五臓ふきふき寺まゐり
修司忌の外れ馬券を栞とす
杳として死すまで戦後梅雨兆す
諸葛菜逢つておかねばならぬ人
落鮎のあえかなる朱を愛しめり
紅花や酒田に残る京言葉
波音の朗々として能登小春
天領や繊月杉の秀にかかり
緋毛氈ぱっと広げて雛の間に
おほひなる冬青空のうつろかな
初霜の箒の柄にも及びけり
頭数かぞへ直して西瓜かな
ざりがにの赤く鎧ひし暑さかな
駱駝の下着干す男もの女もの
川の色一気に変はり時雨来る
サングラスずらして覗くびくの中
冬籠して悪書とも親しめり
晩年も歩幅は広く冬うらら
ぢぢばばの赴くところ春の山
探梅の火に当たらせてもらひけり
筍のみな寝かされて売られけり
太棹の煽るじょんがら夏旺ん
秋晴やしづむこころもいとほしく
ぶらさがるものに蓑虫吊り鐘も
秋めくとぎんどろの木の風まかせ
孵化槽に鮭の目動く雪催
露の世としりてこの世のおもしろき
万感を龍の一字へ初硯
合格子と力漲るハイタッチ
あらたまの一誌につどふこころざし
せせらぎはよろこびの音犬ふぐり
封を切る鋏の音や秋灯下
豆粒となりし消しゴム合格す
小躍りに堰越す水よ春ららら
春著着て行く先々の鏡かな
前方に日の射してゐる初湯かな
草刈りてきれいな風を通しけり
こほろぎの声に囲まれ生家なり
久慈川を八溝颪の真っ直に
雪下ろし雪切って捨て切って捨て
生身魂ばかりとなりし句会かな
人生は四コマ漫画蟻の道
天楽は心耳に聴かむ練供養
つひに皆のつぺらぼうの踊かな
落つこちるやうに巣立てる一羽あり
初鏡帯の高さのこれでよし
常磐木に一雨きたる立夏かな
不味いもの黙って食べる夜食かな
好きなだけ畑にゐた母柿の秋
能登へ発つ二日未明の給水車
笛方は暗きにありて庭えぶり
東洋の黒を鉄漿蜻蛉かな
水底の影を走らせあめんぼう
戦争が立たぬ縁側ぬくとしよ
にしきぎの枝は刃だらけ利休の忌
船虫に逃げ遅れなしここ葉山
脱皮せぬ人間虫を越えられず
尾びれなき鮪の顔の錻力めき
傍らに赤子の寝息毛糸編む
行く秋や新刊本の帯のずれ
河鹿聞き足りて旅情を深めけり
冬深む世に亡き人にもの問うて
一輪は一語に似たりかへり花
父親の声にそつくり合格子
これよりは老いを楽しも猿酒
号令は六年生や雪を掻く
草取は考へ事をする時間
話つつ門まで来たる夏夕べ
遠き日の波の模様の浅蜊かな
ここよりの眺めが好きで墓掃除
凌霄花道を譲れぬ気骨らし
牽く力のみを許され働き蟻
涼しかり戦捨てたる阿修羅の目
何もかも赦してゐたる良夜かな
見つめゐてだんだん滝に呑まれゆく
負けまじく極月のわが食ひ力
ワイパーも予報も加速台風来
この道をパウロ歩みき秋暑し
あばよつと翡翠われを置き去りに
雲は秋成すべきことを成さぬまま
紅梅に倦み白梅は意に満たず
葉鶏頭ことばは削るためにある
降る程に能登には重し春の雪
小糠雨はちきれさうなものの芽に
欲ハナク丈夫ナカラダ草毟る
酒旗なびく水村夢に夏の旅
年の市立ちしやたしかこのあたり
一幅の寝釈迦へ小膝すすめけり
拍子木の手締なりけり達磨市
箒目を正して終へぬ松手入
高らかな居久根ゆさぶる鮭颪
初鏡母似の顔も八十に
図書館のいつもの椅子や青葉雨
人の字に似たる金継ぎ菜の花忌
ビヤホール給仕の腕のたくましき
鷹化して鳩となり庭俳諧す
キンクロの白黒の白寒弾く
死海への道まつすぐに灼けゐたる
鹿の目に囲まれてゐるまくらやみ
母突ける心太待つ四姉妹
ドニエプロペトロフスクの長き冬
支那街をいったりきたり三鬼の忌
火がつけば直ぐに身の丈大どんど
風が組み風が解きゆく花筏
桜餅香る深夜の守衛室
馬券舞ふ府中に獺の祭りかな
駅逓に明治の気概木の根開く
永訣の温顔うづむ寒の菊
左義長を囲む千の眼燃えてをり
息止めて押す実印や秋彼岸
大文字火床へ薪を運びし日
上州のべえべえことば稲の花
炎帝へ出仕控へて蟄居の身
初昔生きてあはんといひしこと
でで虫を手に専門は物理学
鰺たたき叩き具合が秘伝とや
おでん食ふ屋台の棚に招き猫
新盆や炎大きく和蝋燭
庭師来て蜘蛛の囲払ふ祓ふかに
引いて解くリボン結びや雪の果て
しやぼん玉消ゆる一瞬目つむり
百日のはじまってゐる百日紅
干柿の粉をふいてをり日日好日
炎ゆる日の指に吸ひ付く氷かな
聖五月ピアノに映るピアニスト
天の川車飛ばす世来たりけり
年末に着きし賀状のめでたけれ
母よりも姑の味に節料理
夜蛙や水田に揺るる家あかり
湯の滾る音のほかなき冬座敷
虫の音に灯を落とし句を案ず
名月や一子相伝絵らふそく
天高しジェット機の跡のびてゆく
八月や行ずるごとく過す日日
ぶらんこの交互にゆれて仲直り
掬はれて名前を貰ひ屑金魚
妻逝きて物音しない夜長かな
着ぶくれて頷く人情噺かな
短日や仏に留守を頼みもす
獅子舞の後の足のよく跳ねて
江の島へ橋を渡れば年新た
懐かしや声も人なり初電話
椎若葉拙を守りて老い盛り
大般若六百巻を読始
列島は山が七割山眠る
夏木立大きなスケッチブック来る
朽ち舟の薄泥かぶり水に澄む
公園の水辺人来る小鳥来る
石庭の石のあはひの淑気かな
非効率こそが人間霾ぐもり
階段を濡らして行けり水着の子
スプリングハズカムとハムストリング
万緑に染まる牛車の轅かな
黙々と黒板消して花の雨
翡翠のダイブ一閃水ぬるむ
獰猛な香の香水を隠し持つ
句作りは言葉の積木小鳥来る
温め酒とことん愚痴を聞くつもり
寄生木を風の苛む冬籠
田を植ゑてより高天原そよぐ
遮断機の向こう鎌倉灼けてをり
分校の最後の一人入学す
ランドリーに本読む女夜の秋
捨てるため拾ふ棒切れ十二月
盆塔婆を横抱きにして汝長子
夫の座に夫ゐる良夜深みけり
最後には女ばかりの焚火かな
病院食余さず食べてお元日
棚経の学生僧の声太し
夏服を着通す二泊三日かな
徒然に送る余生や蚊遣香
水槽のやうなコンビニ星月夜
人出るは出るは啓蟄の雷門
これしきの鰺を叩きて老いゆくか
トラックで売る仏壇や能登しぐれ
駅弁の蓋の米つぶ麦の秋
短夜や思ひもかけぬ人の夢
手の平はよき俎よ新豆腐
着ぶくれの談笑止まぬ足湯かな
野仏の肩までかくす今朝の雪
出疲れと一笑されし春の風邪
幸せの数は偶数さくらんぼ
鹿もまた暮春の歩みとの曇
濃あぢさゐ濡れて町屋の細格子
身の丈で生きる身軽さつばめ来る
大地震の嘆きへ雪の横殴り
普段着の住職おはす朝桜
風鈴や湖畔の宿の部屋ごとに
春の浜靴を逆さに砂払ふ
山芋を摺りまつ白をいただきぬ
万愚節炭酸泉の泡まとひ
一面の落葉に長き木々の影
手のひらに乗せて枯葉といふ温み
レジ袋大が一枚春キャベツ
鳥帰る方へ堤が伸びている
夏立つやロックミシンの調子良し
庭に蛇三日も経てば往ぬだろう
降る雪や昔ばなしをするように
行く春や富士全容のゆるぎなく
鳥渡る漁へ出ぬ日も海を見て
ロボットがツカレタと言ふ残暑かな
このあたりの者にござると御器齧
熱燗や嘘のひとつも上手くなり
指で拭く人形の目の春ぼこり
皸の手にメモをしてナースなり
書初のいろはのいの字命のい
包丁を持ったまま聞く日雷
新涼やまだかほもたぬこけしたち
小鳥来て日がな慈眼に福耳に
牡蠣剝きの女は殻に埋れつつ
若狭いま滴る山の仏たち
龍の玉蔵して雪の蒼むなり
昔みな良かったはなし栗ご飯
弓を引く肘鋭角に寒稽古
糞掃の袈裟美しや奈良の秋
アインシュタイン舌出す本を読初めに
寒林を素読のごとく歩きけり
天窓の夕焼けて浮世風呂にあり
山道や踏みどころなく落椿
入学に母が袂にすがる子も
眠る児もはち巻きしめて山車仲間
退勤のひとりひとりの背に西日
夕市の𩺊を取的鷲掴み
雪に転んで名探偵登場
水となり火となり夏至のピアニスト
猟期終へぐうたら犬に戻りけり
煮汁から背鰭出てゐる鬼虎魚
暮れかけて釣られし鮎に月の色
百歳の桜赤児のやうに咲く
日本銀行立哨警備の梅雨合羽
ちょっと汗歩き続けてたんと汗
風すべり風すべり水澄まんとす
鳩鴎鳩鳩鴎波止小春
天照大神へと山を焼く
緊迫の皐月の海へ護衛艦
候といくたび謡ひ能涼し
さへづりのなかへなかへとさへづりぬ
鳴きもせず衛士の田鳧のすつくりと
工房の鉋三百初明り
晴れてゐる方が行先春ショール
どことなく男雛は楽をしてをりぬ
水中よりドラマ見てゐる水中花
背鰭出てをり梅雨明けの水田より
焼藷の匂ひや猫の髭うごく
パリ祭や断頭台は移動式
スポイトに醤油おでんの試作中
書初の大腿骨のやうな一
読初は「春はあけぼの」声を張る
この網戸外れ易くて要注意
冬服と思へぬ程の薄着の子
母の日や在さば句なども語れしに
ひばりなほ茅花流しの天にあり
餌投げて坊主で帰る草いきれ
どさっどさ葉付大根どさっどさ
まず洗う気の強そうなトマトから
覗き込みこれとこれこれおでん鍋
身に寄せて弾くおぼろ夜の百済琴
百歳の朝の身支度牽牛花
純客観写生信奉素十の忌
物の芽に寸鉄の影ありにけり
ゆっくりと線香の香のバナナ食う
たまゆらの日の顔拝す初手水
蚊柱の立つ大仏の耳の横
賀客あり先づはなじみの通ひ猫
燕飛ぶ定規で線を引くやうに
百八では足らぬ悔ある年送る
年迎ふ包丁胼胝を育てつつ
禅林の黒塀に消ゆぼたん雪
さしあたり西空へとぶ曼珠沙華
ヘブンリーブルー一輪萎む一輪咲く
だびら雪混じる鳥海颪かな
年新た歩くことより始めけり
白魚の汲まれ目玉の落ちつかず
満身へ浴ぶ日の温みクロッカス
冬ぬくし思ひ出たどる解き物
少しずつ傾く積木原爆忌
冷奴くづし昭和のはなしなど
東京の金魚田のある町に住む
関東はあずましくない冷奴
誰々の名のつく花火煙の中
へぼ茄子も大事にされし時代なり
先生に子が直ぐ見せる藷を掘る
外套は重し昭和のカーキ色
小綺麗に生きたしと着る白セーター
花の雨夫の知らざる世を生きて
今日ひと日笑へ笑へと鼓草
新米やいの一番ににぎり飯
生焼けの餅持ち帰るどんどかな
煮大根ひと夜寝かせて琥珀色
はなびらのひとひらづつのゆくへかな
雲といふ雲のかがやく帰燕かな
秋色の極みを映しはけの水
すつぽかす予定が三つしゃぼんだま
アネモネや意地悪するは人も神も
ぽつんと雨ぽつんとひとり夜の秋
響きよき下駄を選りたり郡上盆
以上
俳句年鑑2025年版を読んで 高澤良一 (2022-10 ~2023-9)角川文化振興財団
俳句年鑑2025年版を読んで 高澤良一
(2022-10 ~2023-9)角川文化振興財団
共鳴句を挙げる。作者名は原著を参照ください。
全作業を終了するには大分時間がかかりますので
ここで中間報告をしておきます。その後、この一文を没
にし、最終作品を提示します。
◆2024年100句選 小林貴子選◆より
新年
どの子にも空は胸かすいかのぼり
春
後ろから春一番の羽交締め
春手套ぽんとヘルメットの中へ
子守唄廃れ子も減り桃の花
夏
瀧口の空へしぶきてゐたりけり
南無三とばかりに身投げ夏芝居
あめんぼにあめんぼが嗅ぐ如く来る
万緑へからだの線を拾う服
緑蔭の家族写真に知らぬ人
秋
秋風を聴く流眄の白孔雀
みなしやがみたる迎火の育つまで
案外に快適さうや猪の罠
零余子十ほどへ窪めて掌
横たへて白りんだうの屍めく
冬
日輪を貼りつけにしてふぶきけり
猟銃折り一弾二弾込めたるよ
除夜詣熱海芸者と道連れに
漂へる間も鳰どりの目のきつと
冬すみれ一会といふは過ぎてこそ
◆年代別 2024年の収穫◆
80代後半以上
ライラック活けて挨拶一行詩
女ひとり泣かして夢のあけやすし
横文字の苗札を土深く挿す
東京が好きで老いゆくクリスマス
命ある限り桜の咲くかぎり
いもけんぴ食べて正月過ぎてゆく
正月は何故か淋しいではないか
青春の香を束ねけりフリージア
十字架はまつすぐにのび冬の雨
マフラーを大きく巻いて雑踏に
緑蔭に郷土史学ぶパイプ椅子
とつぷりと山が隠れて雪雪雪
熱湯のあぶくすこやか大つごもり
貝はみな口を閉ざして炎暑なり
わが顔の駘蕩とあり初鏡
梅ちるやとうんとうんと晝の波
山国の雲のあそびよ鱶・勇魚
空箱が紙一枚となりて冬
ここにまた土竜の盛りし春の土
世に遅れ人に後るるショールかな
晩学のスマホ塾なり万愚節
六月や山彦返へす恐山
80代前半
燦々と青葉にまみれ吉田山
雪の夜の蜘蛛がするする目の前に
高千穂の下山に交はす御慶かな
雪像のゑびす大黒篝燃ゆ
手の螢ぽつと昔を照らしけり
しぐるると徳利をまた傾けぬ
江の島へ橋を渡れば年新た
かはせみの刹那の影を目の端に
だんだんに拳にちから滝の前
蜻蛉の顎つきだす秋の風
星吊す糸の輝く聖夜劇
鹿がつと公家顔あぐる夕霞
70代後半
身を入れて骨折装具凍てかへる
保育所の消えぬ一灯夏至の雨
なだらかに海へ傾き大根畑
蚕豆の莢もくもくと太々と
硝子器に根もしろじろとクロッカス
板塀を横に這ひゐる春の蠅
行く年が訊ぬ何してきたるかと
恋猫の道の向かうへ行ったきり
こんなにも青き冬空地震止まず
また増える蛸足配線春たけなは
渡り鳥丸太幾とせ横たはる
人ごゑに山蛭降ってくるといふ
雑煮椀しづかなる老い頂戴す
要らぬ子がここまで生きてさくらんぼ
紫陽花や単線海へ出るところ
刺身酢漬唐揚今宵鰺づくし
春炬燵指相撲ならお相手す
嚔して次の嚔を待てる顔
十二月となればいろいろ諦める(私(高澤)なら「十二月と」のところ「十二月とも」と遣りたい)
70代前半
戦争がすだれのやうに映像美
どんぐりは神さまの色知らんけど
両手広げて水鉄砲の的となる
引く波の残す光や春渚
味ぽんをしゃばしゃば振って豊の秋
お坐りをしぶしぶの犬クリスマス
さびしらを点すごとくに鹿の尻
蛇穴を出れば戦争してをりぬ
かけ廻る枯野に青畝峠をり
ぱつと散る蠅に戻る気あるらしく(作者には申し訳ないが、私なら真逆に遣りたい。ぱつと散る蠅に戻る気ぜんぜん無し)
錆び始む画鋲の頭梅雨兆す
遠足の列がみづうみ離れけり
雪国や雪の底より除夜の鐘
60代後半
角乗の飛沫(しぶき)一列夏燕
曇り日の色を持たざる石鹸玉
水つぽき雪に純白霰かな
花冷や黒ネクタイはつるんとす
鉄片のやうに蠅ゐる花八手
選ばれて水ごと買はれゆく金魚
蝦夷栗鼠の正面のかほ冬近し
大関の滅法強し草相撲
秋冷鐘韻爆心地の黙祷
春なれや鳥の潜くも羽搏くも
しばらくを花喰ふ鳥として雀
枯山は遠き列車の音を容れ
野馬追の長躯の旗のなだれこむ
60代前半
ボロ市の転がし売りの万華鏡
叩かれて家になる音栗の花(最近流行りの工法に基づく家の建築。鉄筋並みの強さを持つ建材の開発により建築現場は組み立てだけの作業となっている)
青饅に昔の部下の死を聞きぬ
鞦韆や老いゆく国にわれら老い
盆がくる無言と無言わらひあひ
大分の胸のはだけて木の芽雨
我が影を波に消さるる寒さかな
晴れてゐる方が行先春ショール
さよならの片手に残る寒さかな
それぞれの椅子を選んで冬日和
はんざきのまだくらくなるくらくなる
50代後半
からびてはまた波にぬれ桜貝
雪へ雪未来を葬るように雪
飲み干して貝まだ熱き蜆汁
履きかけの靴をとんとん桜の実
遅れくる電車みな見て夜寒なり
窓開ける囀すべり込めるほど
春の風邪額に手などあてられて
50代前半
肩車して神棚に置く破魔矢
読み聞かす絵本のなかも雪降れり
梅ひらく心籠めてといふやうに
ジャンパーの目配せにソロ交代す
40代
数へ日や経のリズムで読む漢字
直角に赤き絨緞曲がり行き
春や子の描く我が顔手足生ゆ
梅見上げつつつれあひにぶつかりぬ
うとうとのかごめかごめの春ごたつ
冷房の強し字幕に追ひつけず
一張羅着れば綿虫寄りてくる
飛行機がすすむ枯木のなかの空
寒晴や尻尾を立てて歩く猫
大寒の朝日を顔にくらひけり
がさ市の包丁で切る段ボール
蒲公英の根っこ如く勁くあれ
祖母いつもぱつと踊をものにして
秋の夜の饅頭論を譲らざる
30代
朧夜は回送電車ばかり来る
あんぱんにほのと酒の香目借時
正論にホットココアの口拭ふ
20・10代
差別語の飛交ふ酒屋扇風機
コンビーフ缶くるくると開けて春
クリスマスツリー一周して帰る
白靴と歩いてシベリアンハスキー
大寒の水を叩きて鳥発てり
◆諸家自選五句◆ より
◆今年の句集BEST15-今年の評論BEST7◆ より
隣りあふ大根や葉のかむさりあふ
空調音単調キャベツ切る仕事
にんじんの皮のはらりと敗戦日
真っすぐに立つほかはなし立葵
白玉を茹で零す湯の仄青き
瀬のひかり眠し眠しと猫柳
大夏野行くや私雨連れて
杭掴む蜻蛉脚一本余し
秒針のぎこちなき音春暁
つひそこと言うてどこまで鰯雲
やどかりの小さき顔が脚の中
靴の上に置く靴下や磯遊び
月の出を三人掛けのまんなかで
戦ぎをるものの一つが蛇の舌
書きながら字の暮れてゆく桜かな
◆今年の秀句ベスト30◆
心に残る秀句
横澤放川が選ぶ30句より
秋風に一間をゆづり仮設去る
八月の太平洋からミナカエレ
月光に休ませてゐるトウシューズ
サンタクロースが米兵だったころ
子供が泣く国にコスモスは咲かぬ
ビー玉に木枯らしが眠っている
辻村麻乃が選ぶ30句より
鶏一羽つぶす相談秋暑し
タラちゃんの敬語あかるし衣被
マフラーを外し家族の顔となり
構へれば整ふ息や弓始
抜井諒一が選ぶ30句より
聖夜劇ぢっとできない羊たち
ストーブ当番一本早いバスに乗る
買ふならば派手でなんぼの水着なり
石段に踏みどころなき落椿
美しくなりたき頃の紺水着
◆俳壇動向◆
畳這う蟻に原寸大の地図
朝露や豊かに訛る牛の声
かけのぼる炭酸の泡鳥の恋
アルプスは大地の鼻梁大夕焼
雨音のうち重なれる破芭蕉
残雪を弾き出でたる熊笹ぞ
鷹湧いて湧いて一天深かりき
氷水つめたき匙が残りけり
良寛忌越後は海も雪の中
一もとの庭の茶の木に花のとき
電灯のひそかな異音さくらの夜
阿波踊ぞめき流るゝ駅に着く
よもつへと真っ逆さまに流れ星
金婚や無常迅速春らんまん
利根運河冬の表情豊かなり
また次の緑蔭めざし歩きだす
風鈴の次の音を待つ病床に
◆全国結社・俳誌一年の動向◆
以上
最近の嘱目句あれこれ19 2024年 (高澤良一)
最近の嘱目句あれこれ19 2024年 (高澤良一)
◼️春
俳人に一流二流四月馬鹿
これら駄句群エイプリルフールと掃き捨てよ
遊ぶでもトコトン遣る子昭和の日
山笑ひ人間万事塞翁が馬
雲雀のごと少年達のファルセット
種袋三つ揃へり種類別
たまさかに回る梅林逆廻り
もう無理と思ふ梅林山の上
梅ちらほらの鎌倉へ足の向く
その履歴諸所を遍歴新社員
梅林は高処にありて見下ろす街
前山の梅見尽して下り道
梅林のうへの鉄塔北風(きた)に鳴る
長者ヶ崎正東風を受けて鳶四散
船内にあらせいとうの気高き香
衝動買ひ室咲き背高あらせいとう
小春日に目刺の横腹生乾き
南極の氷解け出す一大事
梅の見頃おっとり構へ待つことに
オキザリス撚れてのた打つ花黄色
犬ふぐりこちらの一群そちらの一群
雛壇の端に置きあるイヤリング
防風の我慢して風遣り過ごす様
引き季(どき)の来てゐる鴨か羽ばたきす
ぶらんこの一しなひしてビルの上
コーヒー牛乳ぐびと胃の腑に落ち暮春
ランドセル背負う子撮し入学式
◼️夏
読書には五百ルーメン夜の秋
馬鹿になり突っ走るものあめんぼう
蟻・人間・象にも運命、宿命あり
汗かきに言葉「すぐそこ」禁句なり
小悪魔めく海猫(ごめ)の流し目鋭かり
トナカイの餌やり苔類名は知らねど
その穴はものぐさ太郎の蝉の穴
この陽気で蛇は蛻(もぬけ)の薄衣
ゴカイ掘蛻(もぬけ)の穴を掘り当てぬ
柿田川湧水いろんな所より
ゴカイ掘りに生活用水垂れ流し
ほじくって大漁ゴカイ・アオイソメ
方々に蜘蛛の巣箒で薙ぎ払ふ
腰を上ぐ最後の花火かここかしこ
海岸の諸所で歓声大花火
気の毒と云はんばかりの早松茸(さまつ)也
深梅雨の裂けやすき空雷落とす
蟹食う時石にぶっつけラッコ達(ラッコは道具を使う動物)
のっけから焼酎今夜の六角さん
ビールで乾杯豊肥本線皮切りに
外輪山のトンネル抜けて赤牛食べに
半農で百年変はらぬ酒造り(熊本酵母)
赤牛にビールが合ふ合ふ阿蘇南鉄道
麦麹使って大分麦焼酎
この家の主は俺と蠅虎
日の当る雨戸に陣取る蠅虎
天が下足許の蟻見てをりぬ
じりじりと海霧の押し出す氷見の海
山古志の空木の花の崩れ咲き
得手不得手ハッキリしをり姫卯木
器量よしピンクのマーガレットを愛(め)づ
バスで来てマーガレットの咲く半島
地ビールは我が村自慢のヒノキビール
木造コンビニその他駅カフェ日田の夏
ウッドテラスに佇ちて遠望夕焼け富士
八十の朝餉や蛸の噛み具合
漁師料理皮剥ベロッと剥き出しに
岸壁に寄り付くべらの赤青黄
看板もこれ又乙な鱚料理
夏魚往時の八景食堂にて(金沢八景駅前)
ペケでも金魚一匹貰へるこれが佳し(夜店)
水底も燃ゆることあり緋鯉の乱
鮎解禁上流下流無制限
食堂に蠅帳 選り取り見取りの昼餉
宝永の鯰が降らす不二の灰(称名寺境内の井戸跡より大量の火山灰発見さる)
子供達するめを餌にざりがに釣る
音痴そもそも「目高の学校」辺りより
美容師の髷がぼってり熱帯魚
◼️秋
ベッドで読書鶴の首めく蛍光スタンド
風吹けば風に籠る音(ね)虫の秋
ボタン押せばピポとオーブン働く秋
新涼の書棚歳事記コンクール
日翳りてさざんか寒さう四つ目垣
生垣のさざんか名前は「太陽」とぞ
嘲笑ふ石榴の如きお人にて
嘲笑ふ石榴の如き御仁にて
私の良夜「私はピアノので、ピアノは私」(フジコ・ヘミング)
晩秋のフジコ私はベジタリアン
爽やかにピアノを弾くのは生きること
漂泊の乞食坊主や枯れ蟷螂
ホ句又本人次第昼の月
美術の秋到来会場一巡して
ごり押しの棟方版画見倣ふは(棟方志功)
真っ平に撫で切りさざんか国道沿ひ
サインポールくるくるまことによき天気
仰向けの油蝉(あぶら)や遂に力尽き
絶え間なくあぶく上げをり沼の秋
君のゆく道を吾も行く獺祭忌
多忙な日々どぶろくなんぞかっ喰らひ
大震災正しく学び正しく恐れる
フロント嬢笑みを振る舞ひ女郎花
雨後殊に見目うるはしき女郎花
よく見れば瓢の文鎮書物の上
エンジェルトランペット花了え宙ぶらりん
猪のこんちきしょうめ畑荒し
空いてゐる田んぼをとんぼ折り返し
晴れがましく胸突き出して赤い羽根
月夜茸ぺろりと嘘をつく月夜
敗荷の不様を晒す源平池
破芭蕉の破れ具合はそりゃあもう
靴先で踏めばぱふぱふ煙茸
白樺の黄落背後に日本海
白神の日のつらつらと千手(せんじゅ)ブナ
森に入り小鳥と話をする博士
ピッピッヂヂヂ鵙は文章解す鳥(ピッピッは集まれという単語 ヂヂヂは警戒せよという単語 これを繋げて文章にする能力がある 博士は実際に剥製の鵙を森に置き、これを鳴かせ集まって来た鳥たちの反応を観察した その結論として鳥達に文章を解する能力があるということを確信した)
鯛の山作られ唐津くんちかな(鯛は古事記の赤海底魚のこと。赤は魔除けの色。)
鯛山の引き子少年時代より
鯛山はうるし塗りにて中は空洞
黒豆・赤飯・のし餅鯛の添え物に
霧の中信号は赤豊肥本線
阿蘇山頂ガスって石積む露河原
泡立草のはるかその上跨線橋
炭火焼もぎ取り椎茸計り売(農家レストラン)
採れたてのかりかり椎茸油上げ(菌園)
秋の装いスポーティ派とダンディー派
盆波に揉まれ空ら瓶さすらふ海
色変へぬ松あそこにも兼六園
侘びしさの極み地虫はジーと啼く
チチチと小鳥梢に何唄ふ
大風に大撓みして鳥威し
鮞(はららご)乗せ間違ひ無しのほくほく飯(めし)
俺達安すぎと不揃いのリンゴ達
杖あづけ露の身あづけ亀遊館
文化の日日の暮れてくる亀遊館
明日の天気関東カラッと日本晴れ
本日の釣り物鯊と弁天屋
大震災の肘鉄正午の一寸前
◼️冬
口中もからからに冬深むなり
足の裏かさかさ冬晴るゝ日の
大銀杏地中に根を張り春を待つ
酷寒のこくりと飲める水甘し
ベッド出てベッドに戻る夜寒の尿(しと)
ベッド出てベッドに潜り込む夜尿
玄冬の鶴の首めく蛍光スタンド
年用意の一つに歳事記カレンダー
奮発して今年は大版日めくりぞ
大ゴミとしてふん縛る厚布団
どちらかと言へば頻尿春隣
膀胱が小さきと云はれ吾(あ)の真冬(母曰く)
寒暁の底の底よりコケコッコー
ちゅちゅぴーとことり来てゐる小春の庭
夜中ぢゅう暖房さむくなりました
冬来ると歳事記主婦の友社版
年の瀬の俳壇俯瞰どーれと鳶(俳句年鑑発売さる)
加湿器据えこの厳寒に立ち向かはん
夜を徹し夜気ざうざうと暖房音
ベッドの裡(うち)サマリヤ人のやうな妻
電燈の紐引きベッドを起つ寒中
ベッドにて数独の妻イヴ今宵
電燈の紐引き寒夜の尿(しと)に起つ
「今年の百句」こんなもんじぁございません(俳句年鑑発売)
樟脳舟の如きものなり合評鼎談(俳句年鑑2025年版)
手にもってずっしりことしの俳句年鑑
裸木の仙台枝垂れ蛇(じゃ)の如し
すっからかん後数葉の枯銀杏
さるすべりの筋骨隆々たる姿
雪雲の出張ってゐたる海の上
トランスをでんと吊るして年の空
凍て雲の一塊海に上をゆく
スクワットを二回三回今朝寒し
逝く年の光集へる雲の奥
着る物に厚みが欲しき十二月
鴉が巣作る槇の木今裸
白内障持ちの視界に凍てし鳶
油性ペンシール便利と凍て杖にも
浅黒くもみぢ深まる冬なりけり
電気ストーヴ悪魔の如く真っ赤っか
後生楽の翁となりて枯蟷螂
サッカー少年励みに励む試練の日々
来年へと首が繋がるサラリーマン
冬夕焼の如き一念道を拓(ひら)く
寒菊の硬き蕾に手を遣りて
肌突きさすはふりの風は槍のやう
日向ぼこ黒地のボアの上下着て
遠出する好みはだぶだぶカーディガン
冬至湯客に湯屋の親爺のこんにちわ
年の湯や小股すり抜け泡浮上
職安の煤掃き玻璃戸に水ぶっかけ
雪ぐもを峨々と置きたるビルの上
カツカレーカレーの海に匙の舟(松屋にて)
木枯らしに追はれ入店CoCo壱番
西日浴ぶ有馬記念ぞ刻一刻
なだれ込むルメールを見ずこの一戦
雲の名に疎くて退屈冬の空
圧倒し打ちのめす雪五所川原
横並びに熊手と箒公民館
有馬記念最後の直線叩き合ひ
有馬記念ゴールへ全馬西日浴び
有馬記念どこかで誰が仕掛けるか
どんなドラマ生るかことしの有馬記念
戦いは一回こっきり有馬記念
年忘れ持ち歌「一円玉の旅がらす」
凍て落暉山の向うに落つところ
痛々しき言吐くことも年の果(桃子さん)
年の火に焙る全身折り曲げて
紅白への憧れめっちゃ涙して(ことし大ブレークの紅白出場)
年末の買物ガッテン承知之助
四時半で日の没り冬至目前よ
七面鳥焙らるごとく寒夕焼け
本日の呑み鉄本線五所川原
切り売らるチーズの断面雪白(せっぱく)よ
雪舞ってふぶき吹き込む機関車庫
サンタ皆ラップランドの住人なり
硬券のギザの手ざはり江南線
サンタ訪ねて地の果サンタクロースの村(フィンランド)
雪原を窓にストーブ列車かな
迷ひ込む六角雪のスナック街(六角精児)
しばれる夜は魚介満載じゃっぱ汁
こんばんわ私はサンタ北極より
カフェラテの底を掴んで悴む手
冬晴れの雪原をゆく一車両(ラッセル車)
地ふぶきにビールがすすむ五能線
トナカイの角にもちょっぴり雪積り
フィンランド寒さのレベルも二倍三倍
夜も更けてクリスマスキャンドルほほゑむよ
よき出来のリンゴ菓子売るマーケット
太陽風(たいようふう)オーロラの國フィンランド
オーロラの下トナカイと生きる人々
白息の濃淡「オーロラ出でし」と云ふ
白息の濃淡オーロラ出でし 出たその時
一寸おしゃれウイーン生まれのオペラニスト
クリスマス便り欧州の街角より
街中が豪華に煌めくイヴその日
聖なる夜の楽都ウイーンのクリスマス
今年復活ライトアップの大聖堂(ノートルダム)
きよしこの夜のデパート創業百八十年
雪片の冷たさカルピスウォーターは
エッセイスト何書く聖夜のパリを見て
ウインドショッピングパリ随一のデパートで
デパートのショーウィンドに張りついて
イヴ近き皇居のライトアップかな
クリスマスと云へばホーム・アローン見て
デパートの真ん真ん中のこのツリー
石畳の街並み聖夜のマーケット
聖夜の一品砂糖菓子にてシュネーバル(家庭の味)
オペラ歌手歌ふは「ウイーン夢の町」
クリスマスツリーの点灯大広場
灯を連ね連ね独逸のクリスマスこの
石だたみドイツのクリスマスマーケット
この寸劇博士三人(みたり)は東方より
白息に聖歌響ける大聖堂
大聖堂パイプオルガン宙吊りに(十字架は中央)
聖果にして渦巻き形焼ソーセージ
色型とりどりクリスマスツリーのオーナメント
ドイツ語で丁々イエスの生誕劇
年の瀬のストリートピアノの透る空
オーブンのチキンやばいぞクリスマス
酒喰らひ文句が云へぬ海鼠の日々
しろしろと気持ちが息に漏れる日で
消えかけし年の火そろと起ち上がり
溜息をつくよな木菟の夜の続く
聖夜過ぎ鼻が少々馬鹿になり
聖夜過ぎ鼻が不通の朝である
かずら橋のかけかえ了えて春を待つ(シラクチカズラ)
プレゼントの思案あれこれクリスマス
つかむ時のひやつとがよろし竜の玉
嬰児(やや)のおもちや噛んだり舐めたりイヴ間もなく
ていねいに筋取り退けて蜜柑S
こんな日は温泉(ゆ)にあたたまりたき冬至
大晦日何か忘れていやせぬか
年賀状に書く句決まらずもどかしき
暖冬の柿ちぢかんで枝の先
罠に掛かり狸ジタバタする目付
極月の何處から出て来た肥後守
除夜除夜と云ひつゝやっつけ仕事かな
金(かな)切り鋸(のこ)重きを使ふ十二月
当節は少なくなりし忘年会
暖房音聞きつゝベッドに一昼夜
忘年会は仲良し同士でホテルにて(最近の傾向)
風邪を理由「一身上の都合により」
急ピッチ諸処の事情で年末工事
手の温み移れる竜の玉なれば捨て
歳末の勇者の注文激辛ぞ(ラーメン店)
横浜で初雪未来都市の空
横濱で初雪こりゃまただうしたこと
暮に聞くテレサのシルキーヴォイスかな(「愛人」という曲)(🎶 尽くして泣きぬれて愛されて 「ててて」で繋げてゆくテクニックが見事………一青窈)
ことし又時の流れに身を寄せて
国民的お菓子鯛焼一丁焼
鯛焼の創業明治四十年
頭から齧ってあつあつ鯛焼は
へぎ造り鯛は別嬪さんの魚
焼鯛のうろこ掻き等年末に
焼鯛をとことん味はう姿と味
桜鍋人の好みはそれぞれで
寒風にくしゃみはなひる漁師の子
瘡蓋(かさぶた)の廻りが痒く憂国忌
極月の新橋を練るチンドン屋
冬晴れの新橋に立つサンドイッチマン
散る木の葉残る木の葉の脇抜けて
冬の鳶磯風受けて急旋回
三崎あり其処を目指せば北風ぴゅう
湯豆腐の肩寄せ合って鍋のなか
又しても蒲団がズレて寝られぬ夢
私奴(わたくしめ)の好みは前あきカーディガン
タチ悪き風邪を引いたら百年目
曖昧な返事返せり忘年会
セーターの毛玉丸めて屑籠へ
漁師の焚火磯より木片拾ひ来て
犬けしかけ猪焙り出す猟夫
雑炊の具を知る為の御膳箸
よく見れば隙間だらけの雪囲
竹馬の遊び草子に描かれて
堅炭の焔あをあを夜の静寂(しじま)
世は令和電気炬燵に様変り
安んじて焚火にあたる者同士
話すこともう失くなりて庭焚火
竹馬の俳句と云へば万太郎(久保田万太郎)
お小言は炭つぎながら金のこと
備長てふ堅炭使ひ焼鳥屋
焼鳥を焼くにも値の張る備長にて
物臭の何でも乗せる炬燵板
昼過ぎのぬるき炬燵にうたた寝す
使ひ易さこの上なしの掘り火燵
花見上げ皇帝ダリヤの家の前
暮ともなれば映画はドンパチ其れに尽き
この辺と横丁に入る探梅行
探梅行おぼつかなき道とぼとぼと
火事恐ろし輪島一帯総なめに
クリスマスリース送られ大感激
野水仙見頃のころの下田行
南極の氷の厚さ思ふ冬
海山のもの皆枯れて人間も
魚沼の雪に覆はれ失す田んぼ
朝もやに茶の花の黄の漂へる
木枯らしや記憶に残る芥川(芥川龍之介讃)
マスクして街ぶらつける日本人
マスクして街のし歩く日本人
夏風邪にも唯々びくつく日本人
春信も魚信もひたすら待つことより
手の届く位置に侍らす紙屑籠
小鳥には見定め難き実万両
氷上に朝日殺到穴釣す
氷上の穴釣り釣糸神妙に
日輪の高々渡る結氷湖
諏訪の湖(うみ)時に結氷時に融氷
普段着のまゝで突入冬休み
斑(むら)も又一興庭の冬紅葉
彩(いろ)どりの乏しき庭に石蕗の花
クリスマスローズ開花の下準備
軍用機か冬の青空切り裂くは
クリスマスリース飾りて華やぐ扉
クリスマスリース位置どりここら辺
クリスマスリース位置どり愉しみながら
クリスマスローズ枯れ葉を横たへて
クリスマスローズ俯き咲きが得手
クリスマスローズ花上ぐ時待たれ
クリスマスローズ屋敷と言はれたく
クリスマスローズ植え込み鉢々に
グラディエーターII観てこの年おさらばす
ホーム・アローンに続く楽しみ歌の紅白
子供向けコメディホーム・アローンの夜
シリーズものホーム・アローン見て失笑
妻と二人ホーム・アローン見てニュース見て
クリスマスカクタス思へば剣闘士
実千両目当てに来宅小鳥達
就中黄の実千両愛蔵(あいぞう)す
実千両盗(と)られぬやうに網掛けて
進撃の巨人なぞ見て逝く年ぞ
歌の紅白紹介番組目白押し
鳰(かいつぶり)時折り見せる長潜り
水鳥の仕草まちまち冬の海
小鳥達飢ゑてむさぼる実千両
天が下燻る街の師走かな
ふすぼれるねずみのふんの手触りよ
垣越しにねずみのこまくら爪弾き
啼き声の遠くて聞こえず鳰(かいつぶり)
厚氷日差しが通り抜けにけり
厚着してつるんと滑る霜のみち
富士山の麓の熱き浴槽に(銭湯)
両の手に鉢より外す氷面鏡(ひもかがみ)
早々とイヴの聖樹か亀遊館
ぽつねんと聖樹窓辺に亀遊館
けふの日和まるで秋晴れ暖冬か
洗濯物抱へ階下へ師走妻
LP聞きちんとんしゃんと云ふお店(ボロ市)
クリスマスケーキもチキンもファミマにて
世田谷ボロ市お天道様も顔出して
たわわなる実の南天は難を福に
飛行機の航跡凍てゝ一文字
暖(だん)をとる一刻(ひととき)ファミマの「ころじゃが」に
見物す藁で作った大ゴジラ(藁仕事)
藁ゴジラ「えーもん見せてもろうた」(渡辺謙 心旅 NHKBS)
はやばやと聖樹点滅亀遊館
クリスピー口に放るやイヴ近し
歳末にあーあー疲れてクリスピー
十二月国道アスファルト壊す音
病院前バス停長蛇の列なす冬
日に浴す電信柱国道沿ひ
街路樹の片側日当り十二月
歳末の買い物疲れにアイスティ
クリエイト六浦師走の白亜のビルの
吉野屋出て真っ向北風(きた)に揉まれゆく
北風(きた)に靡く牛すきテイクアウトの旗
北風(きた)荒れる中来て吉野屋黒カレー
ほっこりするさくらの和み冬のころ
チャリ疾走冬場の桜並木かな
歳末のサッカー等見て亀遊館
大三十日やってをるなり亀遊館
門松の幣靡き詰め大三十日
ジ・アルフィー歌ふ明日へ明日へ明日へと
鐘撞き出す逝く年来る年長谷寺より
湯屋出れば真底晴れて年の空
終湯(しまひゆ)とて湯屋入れかはりたちかはり
口々に云う言(こと)決まって「明年も」
コカコーラで乾杯逝く年来たる年
来たる年良きお年をと湯屋主(あるじ)
コーヒー牛乳いつものやうに浴後の湯屋
ゆきつけの湯屋にふやけて送る年
門松が立つ家 人が住む家ぞ(近頃 町内に廃屋殖えれば)
お天道さん湯屋の後の雑木林
年の移る明日はどんな風が吹く
へんぽんと煙突のけむ小晦日
金ピカの海平穏に年末へ
歳末の富士山工場群の上
フェリーゆく窓に必死の冬かもめ
富士ちょっぴり枯れ山の上に顔出して
南部市場ごった返しぬこの歳末(横浜市 金沢区)
こつごもり餃子は皮からせつせと巻き
大三十日社殿に向い老夫婦
煤の日はマックで一服カフェラテで
杖いっぽん持ちて散策煤の日は
日めくりを買ひ忘れをり小晦日
大祓茅の輪は海の方向いて(瀬戸神社)
スパチキは噛みつくものよ大三十日
大祓十五時斎行瀬戸神社
川上に竹瓮や朝(あした)回収す
◼️新年
東京湾の向うは房総初日の出
諸家自選先づ冒頭に新年号
蛇年の蛇の図案や新年号
ストーブをがんがん焚いて太郎月
初詣芋づる式に句が出来て
新玉の精出す年と肚(はら)括り
御降が唯降るばかり社の森
ニューイヤー祝しラデツキ行進曲
初夢にゴカイの正しい掘り方等
初日の出見んとて蛻(もぬけ)のベッドかな(妻)
火の粉飛ぶ四方八方どんど焼
万祝の大漁旗は鯛図柄
楕円・菱形・三角鯛の造形は
お飾りに目出度き鯛の金花糖
三ヶ日明け食ぶ睨み鯛なりしが(現在は正月から)
片しある御用始めの街の雪
どかと落つ社務所の雪や早や五日
庭木に来る雀丸見えお正月
読初めに彼の大黒屋光太夫
読初めに眞下喜太郎著の歳時記
左義長了ふ黒焦げ達磨びしょ濡れに
とんどの火積み上ぐ達磨を一なめに
銭湯の初富士裾野霞みをり
新玉のサウナに遊ぶ男ども
初晴れの富士に遊びて亀遊館
乳(ちち)色に定かならざる初東雲(はつしののめ)
初夢にまざと写楽の大首絵
先々に「浦」の付く駅乗り初めに
初社遠く微かに水の音
大河ドラマ「べらぼう」放映五日より(NHK 蔦屋重三郎)
◼️雑
謙さんへバトンタッチの心旅(NHKBS 心旅 俳優 渡辺謙)
謙さんは到って活発楚々と出発
謙さんは到って活発様変り
ひったるむ電線電柱より電柱へ
センサーライト据へて空き巣に強き家(新設)
水田開発怪我の功名重ねけり
遊び呆けて飯・クソ・風呂の昭和っ子
子規並みの句為すには九十まで生きないかん
我武者羅(がむしゃら)に男は忍(にん)の五十年
好もしやカレーの海の黄土色
風向きが気まぐれことしの最終レース(競艇)
東京はWiFiスポット十四萬
三橋美智也の声は深空に吸はるる声
桃次郎忘れちゃならねぇ男意気(トラック野郎 男一匹桃次郎)
なだれ込むルメール馬体にムチ入れて
必死なる一句求めて「童子」の衆
アカペラでトントントンゲレゲレトンと健人(けんと)
乗りに乗るキレキレダンス格好よし
あざとくて松本まりかの甘き声
今年の人 ロバーツ監督語る正平(大谷正平)
躍る躍る年末こっちのケントさん(アカペラで)
今はカフェ昭和五年の旧駅舎
崩れ落つ尖塔復活ノートルダム
日本旅乗っては飲んで飲んでは乗って
倍賞千恵子絶唱「死んだ男の残したもの」
谷川死す言葉遊びはあの世でも(谷川俊太郎)
緑青が年代語る伽藍かな
ハクスブルグ家エリザベートの装飾品
ヨーデルが一寸入った歌合唱(ウイーン少年合唱団)
本音隠しカミングアウトし十八フェス
本音言ひへらへら笑って十八フェス
ギター掻き鳴らし本音を少しづつ
醤油味の昭和ラーメン懐かしや
ブナの根同士交差し一つの生命体
樹幹流真っ直ぐ雨の通り路
腐葉土が雨を濾過してブナの森
白神岳の絶景360度
白神は岩木岩手を両睨み
ブナの森日本海は紺深く(世界遺産)
山合いの町なればこそ酒造り
六角さん乗ってる乗ってる呑み鉄本線
雀焼夜半二時間三時間
何にもない台地に木が生え雲流れ
白川橋梁ゴトゴト走って阿蘇カルデラへ
南阿蘇鉄道復旧トロッコ列車にて
萬延蔵熊本地震に耐へし蔵(創業)
雀焼き夜半二時間開ける店
深酒のあとの乗り越し沼津まで(終電)
潜水艦映画大好き「眼下の敵」(ロバート・ミッチャム クルト・ユルゲンス出演)
サワー飲み博多のぐる皮黒つくね
そそくさと焼ソバファミマのイートイン
午後二時の日が上ずってビルの壁
雑談の途切れずファミマのコーヒーに
こころ旅正平さんも謙さんも(NHKBS 渡辺謙 火野正平)
すすきのにて昭和の味の味噌ラーメン
愛想(あいそ)無きワンオペ亭主のサンマーメン(北海亭)
正平の歌に必至の謙走る(NHKBS 心旅 渡辺謙)
お隣は雑談弾みDOUTOR追浜
運転手声を枯らして諸注意促す(バス車内)
DOUTORのFreeWiFi渡りに舟
DOUTORにて読書する人乳(ちち)やる女(ひと)
跨線橋するっと過ぎる電車の灯
必至こいて書いてアルフィー五十年
シーパラへ馳すモノレール上下して(八景島 シーパラダイス)
この道路富士に直結真っ直ぐに
これはこれそれはそれだとホ句の道
イースト菌等の微生物利用の木造
木からの酒造 杉・黒モジ・白樺・水楢 フルーティ
地震大國日本で木造耐震7・5
法隆寺法堂 古来の技法で強き壁
街を森に子供を育てる場所は木造
粘土状おが屑利用し立体画
木糸(もくし)利用の洋服目指すは通気性
鉛筆は木屑二千万本の木糸
未来の建物 コスパに長ける 木造なり
未来の高層 免震装置(めんしん)無しの木造
間伐材使用の村の薪ボイラー
大学で林業の勉強 地方の時代
樟の香のコンビニ 木造店舗にて
純木造8階ビルの国立劇場
木造図書館木の温もりが程よくて
柱無しの木造空間寿(いのちなが)
木の香して木に囲まれて木尽くめ図書館
坊主山で竹切る遊び肥後守
坊主山で竹切る遊びわが青春
以上
(妄言陳謝)
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